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韓屋 Ondol

創業者
裵學泰 さん

韓国料理の魅力を心ゆくまで堪能!
こだわりのチゲやヘルシーな韓国家庭料理も人気

広島の韓国料理店の草分け的存在であった先代の志を義理の娘の幸子さんが受け継ぎ、温かい雰囲気で多くのお客さまに愛され続けている韓国料理店、「韓屋 Ondol」。創業当初の味わいを守り続ける「チゲ」やヘルシーで食べやすい韓国家庭料理、定番の韓国料理のひとつ「サンギョプサル」など、馴染みのあるメニューも盛りだくさん。創業者の裵さんの韓国料理への熱い想いとは?…ジャックが聞かせていただきます。

飲食業の世界に進まれた理由と開業までの足跡をお聞かせください

裵さん

東広島市出身で、安芸津町で育ちました。1950年生まれの73歳です。広島朝鮮初中高級学校を卒業後、一時期、プロとして芸術活動を行っていました。その後、飲食店を開業することを目標に、居酒屋で働き始めました。
在日という事情もあり、当時は仕事の選択肢が限られていました。多くの職種が肉体労働でしたが、飲食店は現金取引が主流であり、特別な技術や資格が必要なく、比較的少ない資本で開業できることから、その魅力を感じていました。

優しい笑顔でインタビューに答えてくださる裵さん…とても楽しく創業時のお話しをしてくださりました

お店を開業する前はどうでしたか

裵さん

結婚をするときには、独立して自分のお店を持ちたいと思っていましたし、私は長男であったため、儒教的な価値観から親や兄弟の面倒をみなければならないと強く感じていました。
開業資金を貯めるため、お店をオープンする前は様々な仕事をしていました。朝は新聞や牛乳の配達、昼は土建業、夜は飲食店での調理や接客を学ぶために居酒屋で働いていました。約2年間、朝から夜遅くまで、身を粉にして働きました。

しばらくすると、居酒屋の店長を任されることになりました。私は、朝からいろいろな仕事をしていたので、それらの仕事を辞めて店長になることで収入は減ってしまいます。しかし、私はそれをチャンスだと思いました。店長になるということは、仕入れやスタッフ管理、メニュー開発や接客、取引先にいたるまで、お店の管理を任されるということです。給料をもらいながら、飲食店経営を学べる最適な機会と捉えました。
その後、30歳の時に居酒屋での修行を終え、的場町で念願だった炉端焼き屋をオープンしました。

オンドルパンの看板…裵さんが韓国料理店をされていた頃の思い出の看板

物件はどのように探しましたか

裵さん

開業前に、約200軒の物件を見学し、周到に準備しました。物件を見て回る中で、自分のお店に合った場所が明らかになりました。的場町で見つけた物件は、お店が頻繁に変わる場所で、誰もが成功できないと考えられていたためか、人気が低かったことから、家賃や敷金が安く始められました。

息子夫婦さんが経営をされている「韓屋 Ondol」の入口看板…満面の笑みでお出迎えです

開業した当初は、どうでしたか

裵さん

オープンしてから、多くのお客さまにご来店いただけました。その継続性については常に不安がありましたが、当時は経済的に恵まれた時代で、バブル絶頂前の景気が非常に良かったです。大学での初任給はまだ約12万円程度でしたが、毎月その数倍の利益が得られていました。
また、その時期にはカラオケが流行し始めていました。ハチトラと呼ばれるカセットや高品質なスピーカーやマイクなど、カラオケの設備をお店に導入したところ、大変好評で来店客も増えました。カラオケの料金はどの店も1曲100円で提供していたため、利益率も非常に高かったですね。

店舗のある2階に上がる階段に飾られた電光文字看板…「いらっしゃいませ」と書いてあります

韓国料理店をはじめられるまではどうでしたか

裵さん

炉端焼き店を7年間経営した後、韓国料理店を始める決意をしました。そのきっかけは、腰を痛めて入院していた際に、韓国料理の文化や歴史に関する本を読んだことから生まれました。1988年、ソウルオリンピックの年に一念発起して、可部に焼肉・韓国料理店を開業しました。
しかし、この店舗は大きな失敗に終わりました。本当に非常に大きな失敗でした。その後、私は13店舗の店を経営することになりましたが、その中で本当に大きな失敗を経験したのはこのお店だけだと思います。

創業当初の味わいを守り続ける「チゲ」…お肉をはじめ魚介類や豆腐、野菜など、さまざまなチゲが楽しめます

なぜ、このお店は失敗したと思いますか

裵さん

オープンしたのは37歳の時で、今振り返れば非常に若い頃でした。店は広大な駐車場を備え、140席もの大きな規模で、スタッフはアルバイトを含む24人もいました。
本格的な韓国料理店を目指し、韓国の食堂でも使用されている鉄の箸や紙で包まれたスプーンなどを置き、「オソオセヨ(いらっしゃいませ)」「カムサハムニダ(ありがとうございます)」など韓国語を使った接客も行っていました。「チヂミ」や「チゲ」といった料理名も今ではポピュラーな名前になっていますが、当時は、まだ馴染みがなかった時期でした。

そのような時代に大々的に店を開業しましたが、特定の層にしか受け入れられず、お客さまのニーズや時代の背景を無視してしまったことが、最大の原因だったかもしれません。しかし、根本的な問題は、私自身が若すぎて勉強不足だったことです。専門書を読んだだけで、その気になり、炉端焼きでの成功に自信過剰になってしまったこともありました。

ツルツルっとした喉越しと旨みのあるスープが美味しい「冷麺」…さっぱりと食べやすく人気!

大変な時期でしたね。その後はどうでしたか

裵さん

自宅の車を売却したり、貯金を少しずつ使いながら生活していました。生活は困難でしたが、気晴らしに韓国太鼓のチャンゴを叩くことで気分を紛らわせていました(笑)。
その後、新たなスタートを切り、1996年に薬研堀に韓国料理店「オンドルパン」をオープンしました。その後も2号店を立町、3号店を松原町、4号店を並木通りに、約14ヵ月ごとに1店舗ずつのペースで出店し、さらにアクアや向洋にも順調に店舗を展開しました。

外はカリッと中はモチっとした食感の「チヂミ」…おかずにも、おつまみにもピッタリ!

料理の特長やメニューについてのこだわりをお聞かせください

裵さん

開業当初から私たちのお店で特にこだわっているのは、やはり「チゲ」です。キムチチゲ、豆腐チゲ、ホルモンチゲ、豚チゲなど、様々な種類があります。2号店を立町に出店した際、お昼にもチゲを提供し始めました。最初の半年間は苦労しましたが、韓流ブームの影響もあり、爆発的な人気を得ることができました。
現在の「韓屋 Ondol」でも、おすすめメニューはチゲです。また、サンギョプサルも人気のある料理ですね。

豆腐や野菜、韓国餅にソーセージやラーメンなども加えて煮こんだボリュームたっぷりな「プデチゲ」

お客さまに支持されている理由は何だと思いますか

裵さん

私がお店を開業した当初は、多くのチェーン展開しているお店が存在しましたが、それらの店舗は長く繁盛しない傾向にありました。私は、流行に左右されずに韓国家庭料理に焦点を当て、徹底的に取り組んできたことが、お客さまに支持された理由の一つだと考えています。

また、韓国家庭料理の食材は、和食の食材とほぼ同じであることが多いです。料理の下ごしらえも同様で、最後の調理過程が異なる程度です。日本食は、分けて盛り付けることが一般的ですが、韓国料理は、混ぜたり包んだりする食べ方が基本です。そのため、韓国料理は食材ロスが少なく、原価率を下げることが容易であり、利益を上げやすい料理と言えます。

豚のバラ肉を薬味とサンチュと呼ばれる葉に包んで食べる「サンギョプサル」…野菜がたっぷり食べられるのも嬉しい!

店舗経営していく上で大切にしていることをお聞かせください

裵さん

お客さまに対するおもてなしと、彼らに喜んでいただくことが何よりも大切だと考えています。お金を支払っていただくなら、すべてのお客さまを歓迎することが信念でした。
開業当初は、ごろつきのお客さんもいましたが、お客さまに合わせた接客と、彼らを喜ばせることに心を尽くしました。お客さまのわがままには応じないこともありましたが、お客さまの喜ぶことには積極的に取り組みました。
もちろん、食材管理、原価率、人件費などの数値管理も徹底的に行いました。今ではレジで簡単にABC分析などができますが、当時は手計算で線を引き、電卓を使って計算を行っていました。現在でも、当時の収支記録の入った手帳は大切に保管していますよ。

ご飯と一緒に食べるおかずで「パンチャン」と呼ばれる野菜中心の小皿料理

今後の「韓屋 Ondol」のビジョンについてお聞かせください

裵さん

多店舗展開をするつもりはなく、むしろ長きにわたってお店を運営していきたいと考えています。美味しい料理を提供し続け、新しいトレンドを追いながらも、良いものは守り続けたいとの願いがあります。また、お客さまが食べたくなるような美味しい料理を常に提供したいと考えています。

店内はカウンター席や座敷もあります…韓国人気アイドルのグッズなども置いてあります

これらから飲食店開業を目指している方に、アドバイスがありますか

裵さん

飲食店を開業する際には、本気で腹をくくり、覚悟を決めることが重要です。そうでなければ、挑戦しない方が良いでしょう。飲食店経営は非常に簡単ではないことを理解すべきです。なぜなら、今は、食べ物があふれている時代で食事の選択肢も非常に多く、美味しいだけでは成功するのが難しいからです。

お店は階段を上った2階にあります…ハングルで「オンドル」と書かれた提灯が目印

ジャックのひとこと!

ジャック

飲食店経営には緻密な数値管理が求められます。特に食材の原価や人件費の管理は重要となり、これら合計をFLコストと呼びます。FLコストは、飲食店の代表的なコストで、経費の大部分を占めます。飲食店の売上高のうち、FLコストが占める割合のことを「FLコスト比率」もしくは「FL比率」と呼びます。FLコスト比率は飲食店の営業利益と関係し、経営においても重要視される数値です。FLコスト比率が65%を超えると経営は危険な状態で、55%以下の場合は経営状態が良好といえます。

創業者の裵さんは、開業当時から飲食店経営において数字を大切にされてきました。メニュー開発ではもちろん、サービスセール期間でも利益を見越して販売促進を行うなど、常にお店の状況を把握し、お客さまに喜んでいただくことだけでなく、お店に利益が残る経営で多店舗展開でも成功されました。

裵さんは、流行に左右されず、自店なりの料理を追求したことが成功の一因であると話されていました。飲食店のトレンドは迅速に変わるため、その都度、適切なアプローチが求められます。そのため、顧客のニーズを常に聞き入れる必要がありますが、バランスを保ちつつトレンドを取り入れ、独自の料理と組み合わせることで、お客さまに新しい味わいを提供することが可能となります。

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