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味比べ味探しのお店 こびと

店長・唎酒師
小畠誠史さん

東京農大在学中に酒好きの会結成。
30歳で日本酒・焼酎専門店を開業!

L字カウンターが印象的な店内に所狭しと並ぶ、日本酒や焼酎の銘酒の数々。開業7年目を迎え、広島はもとより県外の酒好きからも注目される中区鉄砲町の「味比べ味探しのお店 こびと」。旨い日本のお酒の提供にこだわる小畠誠史さんの飲食業にかける想いとは?…ジャックが聞かせていただきます。

こびとを創業されるまでの足跡お聞かせください

小畠さん

広島市出身、1986年10月30日生まれです。実家は祖父の代から医者の家系で、とりあえず、わしが跡を継がねば!と医大を目指したのですが、4浪しても力が及びませんでした。結局、興味のあった農業を学ぶため、22歳で東京農業大学農学部に進学したんです。東京農大では周りに酒好きの仲間が多く、普段は大学近くの焼き鳥屋で飲み明かし、夏休みなどで各自が北海道、沖縄、宮城などの故郷に帰省すると、地元の酒を買ってきてわたしの部屋で飲み比べをするのが定番でした。飲み比べ会を開くたびに「この指とまれ!」ならぬ「このビンとまれ!」が合言葉になったことや、わしが身長157㎝で一番小柄だったことから、酒好きが集う場は、いつしか「こびと会」と呼ばれるように。実は、これが店の屋号の由来なんですよ。26歳で大学卒業したのちは、北九州に移り住み、昼間は焼き鳥屋、夜は焼酎バーに勤務する生活を3年ほど送って、29歳の時に広島に帰ってきました。

笑顔でインタビューに答えてくださる小畠さん…ベレー帽がとてもお似合いです

意外なご経歴でビックリしました。広島に戻ってはいかがでしたか

小畠さん

「自分の大好きな日本のお酒を提供するお店を開きたい」とは思ったものの、長い間、広島を離れていたので、まずは人脈を作る必要性を感じて3年くらいはアルバイトしながら準備するつもりでいたのですが…。たまたま、現在の店の場所にあったライブ・ショットバーが閉店される話があり、3年どころか、3か月で独立に踏み切ることを決め、2016年12月1日に日本酒と焼酎の専門店「こびと」をオープンしました。わしが選んだ日本の旨いお酒と、お酒を引き立たせる酒肴を提供するお店です。

店内の壁には酒蔵から仕入れた日本酒が多数並びます

居酒屋やスタンドバーなどとも違うお店ですが、開業後の反響はいかがでしたか?何か取り組まれたことは

小畠さん

広島に帰って来たばかりで地元に基盤がないため、そう簡単にお客さんがついてはくれません。まずは店のPRも兼ねて、自分からいろんな所へ顔を出すようにすることから始めました。西条はじめ、沢山の酒処を有す広島は、人口の割合からすると全国でも日本酒に関連するイベントの数がとても多いんですよ。イベントがあると聞くと、すぐに足を運んでいくうちに酒屋さんや酒蔵の人など、いわゆるプロの方とも顔見知りになり、仲良くしていただけるようになりました。ちょうど、広島に点在する酒蔵も世代交代の時期だったことから、家業の酒造りを継ぐ20代の同世代の仲間ができたのもラッキーでしたね。

蔵元さんや蔵人の方とも交流を深めています

同世代の酒蔵の方とも繋がって良かったですね

小畠さん

酒の世界に知り合いが増えると、イベントだけでなく出向く先も広がりました。酒に関する知識もしっかり身に付けておきたい思いもあり、原料となる米づくりのお手伝いにもよく出かけたものです。もともと農学部出身なので農業は好きですし、田植えや稲刈り、草取りなど、田んぼに入って汗を流すのは全然苦ではなかったですね。もちろん可部や熊野、竹原などの酒蔵に出向いて杜氏さんのお手伝いをするのも欠かせません。米を運んだり、米粒をつぶしたり、酒造りの現場で様々な経験を積ませていただきました。

酒造りに参加することもあります…小畠さんは右奥にいらっしゃいます!

なるほど、地元の酒の業界に自ら飛び込んでいかれたわけですね。その効果は客足にも反映されましたか

小畠さん

知り合いが増えるのと比例して、口コミや紹介も増え、じわじわお客さんも足を運んでくださるようになりました。とはいえ、開業後もアルバイトしながらの経営でしたし、常連さんがつくまでは2年くらいかかりましたけど!マスコミにはあまり露出しませんでしたが、3年目を迎える頃には「SNSやインスタで、こびとのことを知った!」という新規のお客さんも増えてくれました。

なんとか店が軌道に乗れたのも酒蔵など、親しくしていただいた業界のみなさんの応援のおかげです。2018年の西日本豪雨や2021年の豪雨災害で、竹原市の「龍勢」を醸す藤井酒造さんなど、お世話になった酒蔵が被害にあわれた際は「いてもたってもいられない!」と、アポ無しで蔵に出かけました。現地に到着すると、床上まで浸水して畳も使い物にならないし、床下には泥が流れ込んで大変なあり様で、特に狭い床下はわしくらい小柄な人間でないと、潜り込めないので、微力ながらお役に立てた気がします。

カウンター奥には多くの食器も並びコンパクトに使いやすく設置されています

さて、お店についても詳しくお聞かせください。日本酒や焼酎がズラリと並んでいますが、何本くらいありますか?あと酒の肴も豊富そうですね

小畠さん

正確には数えていませんが、地元広島はもとより、日本全国のお酒を200本くらいは揃えています。料理の方は店を開いたのち、32歳の時に結婚した妻が担当していますが、仕込みに3日以上かける「漬けマグロ」はじめ、お酒の味を引き立てる美味しい肴を沢山用意していますので、お楽しみください!

お店ではイベントが盛りだくさんです…「お魚捌き会」も開催されています

お酒の肴も自慢ですね!お店の雰囲気も素敵です

小畠さん

ちなみにコロナ禍で緊急事態宣言が発令され、休業要請があった2021年10月にはずっとやりたかった店内の改装工事を行いました。こびとは、お酒のメニュー表がなく、お客様の好みの味や今日の気分、オススメなど、会話をしながらお酒を提供するスタイルが基本です。そのため、会話がしやすいように、あまり会話ができなかったテーブル席を減らして、今まで一本だったカウンターを増設して「L字カウンター」にしたり、メニュー表がない分、ラベルでお酒を選びやすいように「飾り棚」を新設したり、お客様も居心地が良く、わしも使い勝手の良い理想に近い店にモデルチェンジできました。

お客さまとの会話が楽しめるようカウンターを増設してリニューアルしたそうです

お店では良くイベントも開催されているようですね

小畠さん

はい。コロナ禍の前までは、鹿児島や宮崎の蔵の方を店に招いて「焼酎の会」を開催したり、地元広島の蔵の方とジョイントしたり…。酒販店を通すイベントでは、どうしても規制があるので、仲の良い酒蔵の方たちと一緒に色んなイベントを企画していましたね。大好きな酒を通じて人の輪も広がるのでこんなに楽しいことはありません。コロナもそろそろ落ち着きそうなので、また復活させたいと考えています。

イベント開催では、お客さま同士の交流も生まれいつも賑わっています!

お店を経営される上で、小畠さんが常に心掛けていることはありますか

小畠さん

ひと言でいえば、「うまい酒を提供する!」。これに尽きますね。お客様それぞれ、酒についての好みが違いますし、仮に好みがわかっていても、こびとに来る前の店で「お刺身を食べたのか?」「焼肉を食べたのか?」「今日、何杯目のお酒なのか?」といった、その日の流れで、いつもとは違う酒を頼まれるケースもよくあります。わしのスタイルである会話をしながら、お客様の状態やニーズを汲み取って、「一番満足していただけるお酒を提供する」ことが日々、大切にしているこだわりです。

お客さまの好みやその時の状態に合わせてうまい酒を提供されています!

お客さまとの会話を大切にされているのですね

小畠さん

このポリシーを追求するためには、わしもまだまだ勉強しなくてはいけません。酒の知識が不可欠なこびとの営業スタイルでは、自分が身体をこわしたりして店に出れないと、機能がストップしてしまいます。「わしのコピーがいてくれたら助かるのに!」と、よく思いますね。いまでも休みを見つけては県内外の酒蔵を回って勉強していますが、自分と同じ仕事がこなせて店に立てる人がいてくれたら、全国に何百もある蔵をもう少し回ることができるんですけど。2歳になったばかりの息子もいるので、家のことを顧みずに酒蔵探訪に熱を上げ過ぎると、妻から大目玉を食らいそうですが…(笑)。

時間を見つけては全国の酒蔵を訪ねてまわっているそうです!

こびとのような形態の店で飲食業に参入される方に先輩としてアドバイスをお願いします!

小畠さん

何はさておき、「ちゃんと酒に向き合いなさい!」ですね。本気でお酒を提供する店を経営しようとするならば、まずは自分が酒のことを勉強し、しっかり知識を身に付けて仕事に携わって欲しい。開業しても知識を持たないアルバイトに任せたりするのはもってのほか。「せっかくの良い酒が死んでいる」なんてことになりかねません。酒を愛し、酒を学び、うまい酒を提供することにやりがいを感じる人に参入していただきたいですね。

毎日、酒と真剣に向き合い精進されています!

ジャックのひとこと

ジャック

飲食店において、仕入れは利益を左右する経費になるので、慎重行う必要があります。特に食材は、用途に合わせ、できるだけ安く良いものを仕入れなければなりません。
自分で直接、買い付けに行けば、良いものが手頃な価格で手に入りやすくなりますが、ネットワークがない、時間がないなどの問題でできないことも多々あります。
そこで、八百屋や魚屋、食材卸会社などにお願いするのですが、業者を選ぶポイントは、商品の品質や価格の安さだけでなく、いかに情報を提供してくれるか、自店の営業やイベントなどに協力してくるかが重要となります。特に業者さんとの信頼関係は大切です。既製品ならどの業者にしてもそれほど価格に差異はありませんし…
小畠さんは、日本中の酒蔵をまわり、お酒を仕入れているだけでなく、時間を見つけては酒蔵へ仕事に出向き酒造りの手伝いもされています。小畠さん曰く「日本酒が好きだから」だそうですが…まさに生粋の職人肌でプロフェッショナルです!

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