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郷土味 かけはし

店主
柿本孝直 さん

コース料理で1本のストーリーを!
予約が取れない尾道の人気和食店

尾道商店街の入り口に位置し、地元の食材を使った郷土料理で食通をうならせる予約の取れない日本料理店として評判の「かけはし」。瀬戸内の食材、尾道の四季、郷土の食文化を、心から大切に思う料理屋でありたい―と願う店主の柿本孝直さんの飲食業への想いとは?…ジャックが聞かせていただきます。

料理の世界に進まれたきっかけを教えてください

柿本さん

尾道市出身、1972年生まれの50歳です。地元の尾道北高校を卒業後、九州の大学へ進学し、福岡市内の一般的な小料理屋で働いたのが飲食の道への第一歩となりました。その頃から独立志向はあったものの、当時は仕事も中途半端にやっていたし、軽い気持ちで「バーや喫茶店をやってみようか」くらいの思いでした。

22歳の時に同級生の友人が亡くなったのを機に「友の分まで自分は真面目に生きなければならない」と心を入れ替え、本気で料理修業することに。23歳で広島に帰って福山鞆の浦の「ホテル鴎風亭」で10年、「景勝館漣亭」で3年ほど務めたのち、独立を見据えてホテルで培った懐石料理以外も身に付けておこうと向島の鮨屋で寿司や仕出し料理を学びました。トータルで約16年の現場経験がわたしの下地になっています。

店主の柿本さん…料理への想いや経営者としてのポリシーをお伺いいたしました

満を持して開業されたお店の特長は?

柿本さん

店名は、人と人のつながりを結ぶ意味をふまえて「かけはし」と命名し、2009年10月26日、開業に踏み切りました。尾道商店街の入り口にあたるこの場所では、もともと祖母が乳母車を販売する「柿本乳母車店」を営んでいたんですよ。地元で長く親しまれた祖母の店のように「晴れの日に喜びが集まるような空間を作りたい」という思いがありますね。

清潔感ある調理白衣にネクタイ…料理に対する本気度が伺えます(スラッと長身でカッコいい!)

具体的にはどのようなことですか?

柿本さん

開業にあたり、自分が守っていくべき方針として定めたのは、

●純粋、新鮮、人情、簡素、港町、感謝、尊敬…といった尾道を連想させる美点を料理と接客サービスで表現すること。
●あこう、オコゼ、穴子などの魚介類から旬の野菜まで、尾道の食材で構成する会席料理、“特別な日の食事”に相応しい料理内容とサービスを提供すること。
●料理はコースのみ。お客様が“特別な日の食事”を予定された場合、最優先で選んでいただける店を目指し、安さで勝負するのではなく、価格に対する満足度を追求すること。
●季節の変化を皿の上だけでなく、装飾や小物に至るまで店舗全体に反映させること。
●毎日2回も緊張感を保った仕事が難しいため、平日の昼営業は行わないこと。

などです。

お料理に添えられる歌からも料理人としての心行きを感じます

柿本さんのこだわりがしっかり詰まっていますね。さて、メニューについてお聞かせください。

柿本さん

尾道の気候、自然、産業の中で最大に魅力を発揮する食材を料理のベースに据えています。煮た魚をもう一度焼く「はぶて焼き」や穴子とほうれん草を和えた「がせつ」などの郷土料理を考案した先人の思いを踏襲し、再構築した皿を提供するのも然り。高級食材を羅列した会席料理ではなく、身近な食材を組み合わせ、創意工夫して新たな価値を生み出せる料理を目指しています。

普通の食事なのか?特別な記念日なのか?ビジネスの接待なのか?…お客様の利用目的をお聞きした上で、分断された皿の連続ではなく、コース全体でそれぞれに見合った1本のストーリーを作っているのも特色です。

季節感を大切にした美しいお料理…器や飾り葉がお料理を際立てています

開業後、苦労されたことはありますか?またその克服方法があれば。

柿本さん

開業以来13年経ちましたが、苦労だと感じたことは特になく、とても充実して幸せな日々を過ごしてきたと感じています。ただ、会席料理や事前予約に馴染みのないお客様との意識のズレに戸惑うことはありましたね。

解決方法となったのは、自分の根本や型に血を通わせる努力を怠らず、人の評価に左右されない店づくりを行うことでした。

凜としたお料理からも店主の真の強さを感じます

例えば、どのようなことですか?

柿本さん

いつの頃から自分に課しているのが

●技術に優れた憧れの師匠や先輩を意識して、料理の基本や模倣を大切にする。
●尾道一の店を目指すのではなく銀座の真ん中でも通じるような高い美意識を持つ。
●人に会う。突破口は他者との会話の中にあり。
●「万人が求めるもの」より「誰かに突き刺さるもの」を追求する。
●商店街を歩く。山・川・海など自然に身を置き、太陽を浴び、真っ暗な山にも入る。
●「創作」と「奔放」を心掛ける。
●古くからの習慣や伝統を継承する。
●得たものを独占しない。本を読む。嘘をつかない。陰口を言わない。弱音を吐かない。

などの決めごとです。周りからは“頑固一徹な男”だと陰口を叩かれています(笑)。

料理に真摯に向かい合う謙虚な姿勢に感服です…もしかして頑固かもしれませんね(笑)

柿本さんの今後の夢やビジョンをお聞かせください

柿本さん

瀬戸内海の自然の中にいる生物が健やかに育つように努めることですね。穴子、蝦蛄、でべら、無花果、分葱、八朔など、尾道に伝わる食材の伝統的な調理法を踏襲しつつ、新しい用途と可能性を見出していきたい。他の料理人、農業、漁業、食品業、小売業、卸売業、研究者、様々な生産者に光を当て、その背後にある文化を広く伝える活動が目標です。

単に地元食材を使うだけの店ではなく、生産者と連携し、料理人として何ができるかを考え、食を通じて料理人の役割分担の視点から地域の活性化を図りたいと思います。次世代に尾道の食材や自然を残していくためにも現代の料理人が持つべき姿勢を地域の料理人と共有する必要があります。地域の年中行事にも積極的に参加していきますよ!

整理整頓され完璧に掃除が行き届いた厨房…厨房が磨き上げられたお店は必ず良いお店です

これから飲食業界に参入される方に先輩としてアドバイスをお願いします!

柿本さん

枝葉の部分が時代とマッチして繁盛しても、それは一時的なブームで時代はすぐに変わってしまいます。長く支持されるためには、自分の根っこや真の思いをはっきり掴んでおくことが大切です。自分が求めるものについて、しっかりとした判断基準を持ち、この世に対する興味が尽きない人が幸せをつかむのだと思います。

味の好みは十人十色です。人間を面白いと感じ、自分の人生のど真ん中が料理と直結していれば、困難も楽しめるはず。自分の選択に誇りと責任を持ち、飲食店の開業、経営を楽しみ尽くしてください!

お店は尾道駅から尾道商店街へ向かったアーケードの入口にあります

ジャックのひとこと!

ジャック

尾道の日本料理店でなかなか予約が取れない名店です。特に目を引くのが、季節を感じる洗練されたお料理や美しい盛り付けです。盛り付けは、お料理に彩りを添える飾り葉やかいしきなどのあしらい、お料理にあった器の使い方など、料理人のセンスの高さを感じます。

また、店内の落ち着いた和やかな雰囲気と行き届いた接客サービスで、お料理を楽しみながら、ゆっくりと過ごすことができます。
接客の基本は、特別なお客さまだと感じていただくこと「目配り、気配り、心配り」のホスピタリティ精神が大切となります。かけはしさんには、アルバイトさんをはじめ多くの接客スタッフさんがいらっしゃいますが、しっかりと教育が行き届いており、みなさん楽しそうに働いています。
お客さまに愛され人気店になったのは、日々精進される店主や女将さんをはじめ、スタッフさん方、みなさんの努力の賜ですね!

大きな鯛を持って満面の笑みの女将さん(ステキです!)

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